「好き」

私はぽつりと、リーマスに言った。
ここは、夜の談話室。珍しく他の生徒はおらず、二人きりだった。
暖炉傍のソファにリーマスと二人並んで座りながら、私はリーマスの肩に頭を預け、ただ炎を見つめながらウトウト、ウトウトぼーっとしていた。
彼は読書中。
何だか二人でいるのが気持ち良くて、口を突いて出てきた言葉だった。
「何が」
本から視線を上げようともせず、けれど優しい声音で彼は言った。
「あなたが」
リーマスの肩に頭を預けたまま、目を閉じて、呟いた。
言葉の響きを噛み締めるように。
何故だか、泣きたくなった。
「ありがとう。僕もが好きだよ」
ぽん、ぽんと優しく私の頭を撫でながら彼は言った。

あ。優しく拒まれた。

目を閉じたまま、私は思う。鼻の奥がじーんと熱い。

本当なのに。信じて貰えなかったのかしら。

「好きよ」

本当よ。

「好き」
「好き」

まるで呪文のように、繰り返す。

ほら、何度も繰り返し言われると感覚が麻痺して自分もそうだと思い込んでしまうって言うじゃない?
だから私、何度も言うわ。

「好きよ」
ふと、脳裏にあの日の彼が浮かんだ。
シリウス。
冬の夜空に輝く星は、冷たい輝き。
私は残像を振り払おうと目を開けた。優しい炎が揺れている。

「シリウスに、聞いたよ」
リーマスが静かに言った。
私は頭の中を覗かれたような気になって、内心戸惑った。
でもそれを隠してゆっくりとリーマスに視線を向けた。
「この前、言い逃げしたって?」
リーマスはにっこり笑う。あなたはいつも、にっこり笑う。その心の内は計れない。

シリウスの奴、余計なことを。

私は心の中でシリウスに悪態を吐いた。

邪魔をしないで。

「何でいきなりシリウスが出てくるの」
私はあからさまに不機嫌な口調で言った。
「別に。らしくないなって思って」
そう言う彼の口元は笑っていたけれど、目はどこか冷たい光を放っていた。
その光はシリウスの放つ光にも似ている。

呪文を、かけなきゃ。
あなたにも。
私にも。

「あなたが、好きよ」

嘘じゃないわ。本当よ。
優しいあなたが大好きよ。

「わかってるよ。僕も、君が好きだよ」
優しい声音と冷たい瞳で彼は言う。

知ってるわ。だからお願い。もっと沢山、何度でも呪文を言って。

「でも」

私はあなたが大好きよ。

「君は」

好きよ。

「想っているだろう」

好き。

「シリウスを」

好き…。


目の前で輝く星が弾けた。
リーマスの右手が私の頬に当てられる。彼の手は驚くほど冷たかった。
その体温に、胸が軋む。

優しいリーマス。それでも私を好きと言ってくれる。
私、あなたが特別私に優しいのを知っていた。
その優しさに甘んじて、目の前で強く輝く星を見ないようにしていた。
あの日見た彼の姿が、私の中に住み着いたことを認めてしまうのが恐かったから。

「ごめんなさい」
音にならない声で私は呟いた。
するとリーマスの瞳から冷たい光が消え、いつもの笑顔が戻ってきた。
頬に当てていた手をそのまま私の後ろに移動させ、軽い力で私を引き寄せた。
私はぽすん、と彼の胸に収まり、頭を撫でる彼の優しい手にうっとり、溺れた。

ごめんなさい、リーマス。
でもね、私があなたを好きなのは、本当よ。

ごめんなさい。謝る私は、
なんて最低。


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あとがき
はっきりしない話ですみません;
名前変換一回ですみません…。
ごーめーんーなーさーいー!

感想・叱咤お待ちしております。
H17/12/9筆 花