「嫌」
私はシリウスに向かって短く言った。
ここは、夜の談話室。珍しく、二人きりだった。
彼は暖炉の傍のソファに浅く腰掛け、背もたれに沈むようにして目を閉じていた。
暖炉の炎が彼を照らして、ゆらゆら揺らめいていて、
いつの日かの西日に照らされる彼の姿がフラッシュバックしたのだった。
シリウスはわずかに眉根を寄せ目を開いた。
「何が」
彼の座っているソファと丁度90度の位置にあるソファに座っていた私に瞳だけを向けながら、低く良く通る声で言った。
私はその視線に居心地の悪さを感じ、何故今ここにリーマスがいないのかと考えた。
「何か、喋ってよ」
「は?」
唐突な私の申し出に、シリウスはあからさまに顔をしかめた。
「シリアスなの、似合わない。何か喋ってよ」
理不尽なのを承知で私は言う。我ながら意味不明だ。
「お前なぁ…。この前といい、何だそれ。似合わないって」
ため息を吐きながら彼が言った。
「だって、嫌なのよ。シリウスは笑ってないと困る」
それは、当然のことであり、私の自己満足なのよ。
「あのなぁ、俺だって考えるときくらいあるの」
「でも貴方は笑ってなきゃいけないんだよ。
それくらいの報いは当然なの。女の子にあんな顔させるんだから!」
本格的に何を言ってるのかわからなかった。
何故、こんなにも不安になるのか。
「お前に何がわかんの」
鋭い視線で彼はぴしゃりと言った。その視線に私は怯む。
突き刺さるような視線はシリウスという名に相応しく、冷たく鋭い。
何人かの女の子たちにはこういう顔をしたのかしら。
リーマスならこんな顔は絶対しない。
私が黙ったままでいると彼は小さく溜息を吐き、頭を垂れて両手で顔を覆った。
少し間を置いてその頭を持ち上げる。
「」
気を取り直したように私の名を呼んだ。
そして軽く手招きをする。
私は意味が解らず戸惑った。
「こっちに来い。二人で話すには遠過ぎる」
胸に重りが圧し掛かった。
何を好き好んで私を不安にさせる人の傍に寄らなければならないのか。
私は偶然リーマスが寝室から降りて来ないかと階段に目を走らせた。
しかし談話室は静まり返っていて人が降りてくる気配はない。
私は仕方なく、意を決してシリウスの隣に座り直した。
「リーマスでも待ってんの」
再び強い口調で彼が言った。頭の中を見透かされて、私は肩を震わせる。
シリウスは恐い。
リーマスが恋しい。
こんな状況で他の男のことを考えるなんてどうかしてる。
でもさっきから、目の前にリーマスの笑顔がちらついて仕方がないの。
シリウスはまた溜息を吐いた。今度は深く。
彼はソファに片足を乗せ、身体ごと私に向き直った。
「俺、リーマスみたいに優しくないから。いつもはっきりと断るしか術がない。
ブラックの名前が欲しいだけのやつもいるし…それに」
シリウスには珍しい静かな声音。私はゆっくりと彼の方を見た。
俯いた彼の長い睫。あの日の光景が思い出される。
この人は本当に端正な顔立ちなんだと改めて思った。
「女なら誰でもいいってわけじゃない」
どこか思い詰めたような彼の視線と、視線が絡み合う。
駄目、私、リーマスが恋しいの。
私、貴方のそんな顔、知らないわ。
「俺」
貴方は恐い。
「が好きだ」
恐い。
その強い眼差しから目が離せない。
そっと腕を伸ばし、私の頬に触れる手は、驚くほど暖かかった。
その体温に、胸が痛む。
「私、リーマスが好きなの」
貴方は恐い。
「知ってる。だから、優しくできない」
強い眼差し。でもその瞳の奥には暖かい光。
輝くシリウスを知っているわ。
でも、リーマスの笑顔が恋しい。
私は最低。
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あとがき
選択式小説に挑戦。惨敗…。
じれったいヒロインでごめんなさい;
感想・叱咤お待ちしております!
H17/12/9筆 花