リーマス・ルーピンという人は、いつも苦しそうに笑う。
は、そう思っていた。

初めは不慣れなこの学校生活に緊張しているだけなのかと思っていたが、
二年目になってもその笑顔は
変わることはなかった。








Regeneration








ある日、は魔法史のレポートを仕上げるために一人、図書館へ向かった。
目当ての本を取り、空いている席を探す。
11月の、珍しく良く晴れたこんな日は、やはり窓際が良い。
そう思って窓際の席に目を走らせると、一人の少年がの目に入ってきた。
窓から差し込む少し埃っぽい光を浴びて、
少年は心ここにあらず、といった風情でぼぅっと外を眺めている。

外界からのものを全て遮断してしまっているようなその少年は、一体何を見ているのだろう。
12歳の少年に、一体何がこんな表情をさせるのだろう。
しかしは不謹慎にも、綺麗だ、と思ってしまった。

足が勝手に彼の方へ向かう。
「ミスター・ルーピン?」
さほど仲が良いわけではない。
気安く呼ぶには少々気が引けた。
少年が何を見ていたのかが気になって、は窓の外に目を向ける。
そこには、この悲しげな少年と普段から仲の良い、二人の少年がいた。
元気に走り回っている。
「ジェームズとシリウスだわ。あは。シリウス、転んでる」
クスクスと笑いながら室内に目を戻す。
目の前の少年は、相変わらず外を見ながら微笑んでいた。

それは、眩しいものを見るように。
は、何か違和感を感じた。

「ここ、座って良い?」
少年の正面の椅子に手を掛けて言った。
「どうぞ。ミス・
少年は優しく微笑んだ。
で良いよ。私もリーマスって呼ぶから」
椅子に座りながら、にっこりとは言った。
少年は遠慮がちに微笑み、「どうぞ。」と言い直す。
は満足気に口元を上げた。
「リーマスは外に行かないの?」
ちらりと窓の外に目を向ける。
二人の少年は、今度は地面にしゃがみ込んで何やらしている。
また仕様もないことを考えているのだろう、とは思った。
「・・・僕は、レポートやらなきゃ。魔法史の」
リーマスはそう言ったが、机の上には羊皮紙すらも出ていない。
また、小さな違和感を感じたが、はそれ以上何も聞かなかった。
「そっか。私も魔法史のレポートよ。良かった。分からないところがあったら教えてもらえるわ」
羊皮紙を広げ、羽ペンで『ゴブリンと魔法省の関係について』とタイトルを書き込む。
とりあえず、手近にあった資料を開き、パラパラとページをめくった。
「216ページに載ってるよ」
向かいからリーマスが手を伸ばしての代わりにページを開く。
「ここ」
「ありがとう」
はにっこりと笑顔でお礼を言った。
少年はふと、視線を逸らし、窓の外を見る。
もつられて外を見た。
先ほどまでいた二人の少年の姿が消えていた。
代わりに視界に入ってきたのは、スリザリンのセブルス・スネイプ。
彼は本に集中しながら歩いていた。
リーマスが身体を動かした。
何が彼の気を引いたのかが気になって、はリーマスを見つめる。
リーマスが外を見ながら眉をしかめた。
スネイプは本に目を落としたまま、先ほどまでジェームズとシリウスがいた所に近付いている。

「私ね、本の匂いって好きなんだ」
自分でも何を言い出したのか解らなかった。
何となく、彼の気を引きたいと思った。
「古書も、新書もどっちも好き」
そう言って、再び外を見る。
今度はリーマスがに視線を向けた。
「本って魔法とは違う力を感じる。
 文字でしかないのに、色んな創造があるよね。それって、凄い」

スネイプがジェームズたちがしゃがんでいた所に足を踏み入れた。
「あ」
は思わず声を大きくした。マダム・ピンスがじろりと睨む。
スネイプが足を踏み入れた瞬間、そこの芝たちがにょきにょきと勢い良く伸び始めた。
たちまちスネイプの膝に下まで絡みつき、彼は足を取られてうつ伏せになって倒れてしまった。
どこからかジェームズとシリウスがやってきて、わざとらしくスネイプに手を差し伸べていた。
「全くあの二人は。あの才能をもっと有効に使うべきだと思わない!?」
スネイプが彼らの手を振り払い、二人の少年は満足気に笑いながらスネイプの元から去っていく。
「有り余ってるんだよ」
リーマスが言った。
スネイプが芝から抜け出そうともがいている。

「僕も、本の匂い、好きだよ」
少年が静かに言った。
はリーマスに視線を向ける。
少年は図書館をびっしりと埋める本たちを見上げていた。
「僕も、彼らみたいに何かを残せたら良いな」
リーマスが苦しそうに微笑んだ。

「・・・私も」
何が、彼にそんな表情をさせるのか。
出来ることなら、心の底から笑って欲しい。
は何を言って良いのか判らなかった。

「ねえ、私たち、きっと良い友達になれるわ!」
突然、何故か声を荒げてが言った。
マダム・ピンスが小さく咳払いをしてじろりとこちらを睨んできた。
リーマスが驚いて目を丸くする。
は慌てて肩を竦めた。口に手を当てて、顔を真っ赤にする。
照れ隠しにとりあえず、レポートをやっている振りをした。
上目遣いにちらりとリーマスをみると、彼はクスクスと声を殺して笑っていた。

苦しそう、ではなく、純粋に。

初めて見るその笑顔に、は胸が高鳴るのを感じた。
「な、何で笑うのよ」
「あっは。ごめ・・・」
の質問を無視してリーマスは笑い続ける。
スネイプはいつの間にか芝から逃げ出したのか、そこにはもう誰もいなかった。
「だって、本当にそう思ったんだもの。友達になりたいって」
少し自信なさ気にが言う。
やっと笑うのを止めて、リーマスは驚いたようにを見た。
「うん。ありがとう。僕も、と友達になりたい」
とても綺麗な笑顔を見せて、リーマスはに手を差し伸べた。

「きっと、良い友達になれるよ」

初めて見る彼の笑顔。今までの苦しそうな笑顔とは違う。
それはどこか淋しげで、けれども確かに幸せがあった。

は頬が熱くなるのを感じて、俯きがちにその手を取った。
「よろしく」
「よろしく」

彼の笑顔をもっと見たい。

の頭はそのことで一杯になった。
「じゃあ、とりあえず、レポート終わらせる?」
リーマスがにっこりと言った。
いきなり現実に引き戻されて、は慌てて羊皮紙を見た。
未だ、タイトルのみ。
そして、
リーマスの顔には悪戯な笑み。



リーマスルーピンという人は、苦しそうに笑う。
はそう思っていた。
二年生までは。
彼の笑顔に真実変化が表れるのは三年生になってからだが、
この日から、少しずつ変化は起きる。
彼の全てを共有することは出来なくても、
には、それだけで十分だった。






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あとがき
ホグワーツ二年生の設定。
いかがでしたか?
リーマス夢が一番書きやすいかも・・・などと思い始めました。
今のところ一番キャラが決まっているからですかね。
原作ではルーピン先生が悲しすぎて悲しすぎて、本当に幸せになって欲しいと思います。
タイトルは「Regeneration」にしようか「Reproduction」にしようか
迷った挙句、前者に。
英語、弱いのでニュアンスが良く解らなかったのです・・・。
もしも、こっちの方が良かったんじゃない?ってのがあったら
教えてくださると嬉しいです。勉強になります。

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H.17.5.24筆 花