そう、
あなたはいつだって自由奔放
そう、
私のことなど気にも留めない

あなたらしさが、私には痛い



あなたとわたし



グリフィンドール寮の談話室は今夜もまた、悪戯仕掛け人たちによって大盛り上がりだった。
話の発端人である彼ら4人を囲むようにして生徒たちが群がって一緒に騒いでいたが、
何人かの生徒たちは、各々のレポートや課題の邪魔をされ、幾分不機嫌になっていた。
ついには我慢しきれず、そそくさと談話室を後にするものもいる。

は、特に読む気の起こらない本を机に広げ、しかし目は、その文字を追うことはなく、
代わりに、部屋の中央で囲まれているくしゃくしゃ頭の少年を見つめていた。
と同学年の彼は、一年生の時からほとんど変わらない。
相変わらずのくしゃくしゃの髪、自信に満ちた表情、大袈裟な口調、悪戯に笑う目と口。
それらは周りの人間を少なからず幸福にさせ、笑いを提供していた。
はそんな彼が好きだった。
けれど、彼のに対する態度もまた、変わることはない。

決して向けられることのない瞳。

知らずに口元に微笑を浮かべて、大好きな笑顔を見つめていたの瞳に、
ふと、哀しみの色が浮かんだ。
決して埋まることのない距離。
談話室の笑い声が、どこか遠くに聞こえた。

「悩み事でも?」
突然声を掛けられ、は我に返った。
気が付くと夜ももう更けてきたのだろう、先ほどの喧騒はすでになく、
数人の生徒が残っているだけで、談話室は静まり返っていた。
は慌てて声の主を見た。
「ジェームズ」
の座っていた席の正面に、ジェームズは小首を傾げて立っていた。
「まあ・・・そんな、ところ・・・?」
何を言っているのだろう、とは思う。
ジェームズがの正面の席に座った。
机に片肘をついて、その上に顎を乗せ、いつもの悪戯な笑顔のまま、を見つめた。
「シリウスたちは?」
は一瞬の気まずさを感じ、思いついたことを口にした。
「先に部屋へ戻ったよ」
ハシバミ色の瞳をやや細めてジェームズが言った。
会話が途切れる。
はなるべく平然を装った。しかし内心は、彼に自分の気持ちが気付かれてはいないかと不安だった。
厄介な事に、彼は昔から勘が鋭い。
例え、この気持ちに気付かれてしまっても、困ることはありはしないのに。
しかし今のには、今のこの距離感が丁度良かった。
この距離が、縮まるのも広がるのも怖かった。
「大丈夫かい?」
ジェームズがの顔を覗き込む。
は困ったように笑って見せ、精一杯の強がりを言った。
「大丈夫よ。自分で解決できるから、心配には及ばないわ。」
すっと、ジェームズの瞳を真っ直ぐ見据える。

この不安に、怯むことはない。

彼の瞳が一瞬驚きに見開かれたが、すぐにいつもの悪戯な瞳に変わった。
「言うね」
クスクスと笑いながら、感心したようにジェームズが言った。
「本当のことよ」
「じゃあ、どうしても助けが必要になったら、言ってくれ」
そう言いながらジェームズは席を立った。
おやすみ、と一言残して寝室への階段を上っていく。
は、振り返ることのないその背中を見送った。

かなわないな、とは思う。
彼の方からこの距離を縮めることは決してない。
彼はいつも、執拗にに構うことはない。
けれど、彼の方からこの距離を離すこともまた、あり得ない。
彼はいつも、を、友人を突き放すことをしない。

全身を切なさが包み込んだ。
彼の変わらぬ態度が、優しく痛い。
変わることのない距離が、重く圧し掛かる。

は両目を閉じて、その切なさを吐き出すようにゆっくりと、長い溜息を吐いた。

それでも心地の良い今の距離感。
彼の瞳がだけを見つめることは決してないけれど、
動くには勿体無い今の位置。
優しくて痛い、その切なさすら手放すことが出来ない。

は寝室に戻ろうと席を立った。
本を持ち、歩き出す。


そう、
あなたはいつだって自由奔放。
だから私も、
自由でいよう。
優しくて痛い、その切なさを抱いたまま。


しっかりと、前を向いて。




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あとがき
ジェームズ夢は余り書かないとか言っておきながら書いてる自分・・・。
まあ、所詮はそんなもんですよね。
だってジェームズだって好きだもん。
自分の表現力のなさに呆れかえりますが、
一体どうしたら養えるのでしょう?
感想や駄目だし要望など下さると本当に助かります!
H17.2.26筆 花